今年の3月と4月 そして5月と、3ヶ月連続で出版された
光文社の文庫本「介錯人 別所龍玄始末」シリーズの第1巻
『無縁坂』と、第2巻『黙』の2冊の中古本を先日 入手した。
大好きな「風の市兵衛」シリーズを書かれている辻堂魁さんの
時代小説である。
この「介錯人 別所龍玄始末」という小説、すでに 2015年
宝島社文庫から出版されていて、大好きな辻堂魁さんの小説
だから、当然 六兵衛も読んではいるのだが
なにしろ忘れっぽい六兵衛ゆえに、その内容については
ほとんど記憶に残っていない。
そして その「介錯人 別所龍玄始末」が、出版社も宝島社文庫
から光文社文庫に変わり、『無縁坂・介錯人 別所龍玄始末』
との新たなタイトルを付け、「介錯人 別所龍玄始末シリーズ」
の第1巻として、まず今年の3月に出版されている。
1ヶ月後の4月には第2巻の『黙・介錯人 別所龍玄始末』が
そして翌5月には、第3巻『川烏・介錯人 別所龍玄始末』と
続けて出版されている。
まず 第1巻の『無縁坂・介錯人 別所龍玄始末』を読む。
第1巻『無縁坂』は、宝島社から出版されていた2015年版
と同じ内容で、「龍玄さん」「一期一会」「悲悲(かなかな)」
そして「雨垂れ」と続く連作短編集なのだが、第4話目の
「雨垂れ」のみは、今回の光文社版での描き下ろしだという。
その4話目の「雨垂れ」には、龍玄さんの父親や祖父、そして
曽祖父あたりまでの龍玄さんの昔の系図が明らかになる・・。
龍玄さんの家族四人が暮らしている町家の場所が
第1巻の15ページに載っていたので、「江戸古地図」と
見比べながら歩いてみた。
『 龍玄の住まいは 浄土宗専修山 講安寺 門前の裏店である。
山門前から南へ四半町(約 二十七メートル)ほど子店が並んだ
門前を抜ければ、道幅 三間(約 五メートル)の無縁坂である。
無縁坂を西に折れ、越後高田領中屋敷(榊原式部大輔)と
加賀大聖寺領上屋敷(加賀中納言)の土塀の間の急な坂道を上ると
加賀前田家本家の土塀に突き当たる。
土塀沿いに三つばかり曲がって だらだらと坂道を なおも上り
麟祥院わきから切通しへ出る。』
文章の中に「浄土宗専修山 講安寺 門前の裏店」・・とある。
現在の住所だと、東京都文京区湯島4丁目 辺りのようだ。
・・相変わらず こんな事が好きな 六兵衛である。
そんな別所龍玄さんが、2011年に発行されていた
『風の市兵衛 第4巻・月夜行』に出ている・・という話を
小耳に挟み、そういえば 市兵衛さんの 割りと始めの頃の物語に
そんな話もあったような・・と思ったものの、その市兵衛さん
の第4巻『月夜行』の内容を、やはり ほとんど忘れてしまって
いる六兵衛なので、『第4巻・月夜行』を再読用の本棚から
取り出し、改めて読み直した。
再読して思い出したのだが、同じ名前、同じ介錯人という職業
ながら、『月夜行・風の市兵衛』 第4巻での別所龍玄は
市兵衛さんの敵役として登場し、介錯人ながら その一方で
暗殺をも請け負っているという設定なのだ。
そして、そんな別所龍玄を知る牢屋同心らは「別所は冬の心を
持った男だ。あいつが ずばっとやると 血も凍えて出ない・・」
と 彼を評して噂するという。
一方、『介錯人 別所龍玄始末』での別所龍玄さんは
『龍玄さん』と呼ばれても可笑しくないような、武士としては
小柄で22歳と若く、物静かな佇まいは童子のようでもある。
家庭での、姉さん女房の百合との やり取りなどは微笑ましい。
しかし その介錯を知る者の間では、凄腕だとの評判である。
他人からは「不浄な仕事」だと言われても 龍玄さんは意に介す
こともなく、決して武張らず、淡々としていて、市兵衛さんの
4作目で敵役として登場した龍玄とは別人格となっている。
そんな別人格の別所龍玄が、敵役として登場した祥伝社文庫の
『風の市兵衛 第4巻』が出版されたのは12年前の2011年。
それから4年後の2015年になって、宝島社文庫から
別所龍玄を主人公にした『介錯人 別所龍玄始末』が出版された。
たぶん 六兵衛の想像だが、作者は別所龍玄を主人公にした物語
を書きたくなったのではないか・・。
『風の市兵衛 第4巻』で登場した別所龍玄の 善悪はともかく
冷たさの中にも武士としての誇りや佇まいがあるのだが
やや悪のイメージもある龍玄では物語の主役は張れず
だから 改めて『龍玄さん』と呼ばれても可笑しくないような
人物設定にして、『介錯人 別所龍玄始末』を書き下ろした
のだろうと想像したりして よがっている・・。