「インターネット電子図書館」と銘打った『青空文庫』を
何気に見ていたとき、たまたま 下村湖人の『次郎物語』の
文章の一節が目に入った。
『そういう境遇に巡り合わせたんだね、そんな運命に巡り
合わせたのは、その ”種” のせいじゃあない。
“種” 自身では それを どうする事もできなかったんだ。』
「次郎物語」第2部、次郎は中学生になり
2歳年上の兄・恭一と、継母の弟・徹太郎おじさんと3人で
山登りに出かけたとき、条件の厳しい山の岩と岩の間に生え
それでも力強く生きる松の木を見ながら、徹太郎おじさんが
次郎たちに話した言葉だ。
何処からか飛んできた松の木の ”種” が、岩の間に落ちて
芽が出て少しずつ大きく育っていった松の木は、生きていく
のに厳しい環境ではあるが、そんな運命を嘆くのではなく
与えられた運命の中で、気持よく努力することが大切なのだ。
それが本当の命というものだろう。
そして しまいには運命の ”岩” を打ち破り、それを突き抜け
地底に根を張る事が出来たんだろう。
松の木は今でも岩に挟まれたままだが 松の木にとって
もう そんな事は何でもない事だろう・・と
徹太郎おじさんが次郎たちに話をする場面だ。
少年の頃の次郎は、決して自分は幸せだとは思えず
心のどこかで 恨みのような不満を持って生きてきたが
運命を嘆いているばかりではダメだという徹太郎おじさんの
「松の木の運命」の例えが、その後の次郎が変わっていく
きっかけとなる場面でもある。
六兵衛がまだ高校生くらいの頃、NHKのテレビ番組で
下村湖人 作の『次郎物語』を夕方に放送していた。
「次郎」役は 池田 秀一さん。
乳母の「お浜」役は 加藤 道子さん。
父親の「俊亮」役は 久米 明さん・・等々。
白黒画面時代の そんなドラマの池田秀一さん演じる次郎が
強く印象に残った。
それから1~2年後に、今の つれあいと付き合い始めた頃
『「次郎物語」面白いから読んだら・・』と、単行本だったか
文庫本だったかは忘れてしまったが、彼女が『次郎物語』の本を
貸してくれた。
その頃の六兵衛は、小説など ほとんど読んだ事もなく
しいてあげれば高校生の頃に、放浪暮らしに憧れた時期が
あり、姨捨(おばすて)の風習をテーマにした『楢山節考』や
天皇制を批判したような短編小説『風流夢譚』などの作品を
発表されていた深沢七郎さんの『流浪の手記・風流夢譚余話』を
彼が放浪する理由さえ知らないまま、ただ つまらない現実から
逃避したいがためのに憧れた 放浪生活だったけど・・。
横道に逸れた・・。
つれあいになる前の彼女が進めてくれた『次郎物語』の本を
テレビドラマの池田秀一さんの印象も まだ強く残っていて
何日もかけて読んだ。
テレビドラマでは あまり強く感じなかったが、改めて本を読み
強く印象に残ったのが、はじめに記した「松の木の運命」の
話の場面だった。
先日 そんな話を つれあいにしたら
文庫本ならあるよと、何処からか取り出してくれた。
旺文社発行の上・中・下巻の3冊である。
その文庫本が、50数年前に借りて読んだ「次郎物語」の本
その物だったのかどうかは、六兵衛にも つれあいにも
忘れてしまうほどの 遠い 遠い 昔の話で、それでも六兵衛は
改めて懐かしい「次郎物語」を再度 読み始めることにした。
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