『 四国、四万十川沿いの川漁師の家に生まれた女は
赤子のとき、鉄砲水で両親も兄姉も亡くした。
同じ川漁師の老夫婦の家で育てられた。
娘になった十二歳の秋、次の春が来れば大阪の方に
買われて行くという頃、その僧があらわれた。
四万十川が大きく蛇行し、岸が崖になっている一角の
洞窟にいた僧を見つけた。
・・・
(略)
・・・
僧が老夫婦に何を話したのかわからぬが、
娘は僧と二人で四万十川を出ていった。』
伊集院 静さんの文庫本『羊の目』の27ページ目に
六兵衛が幼い頃から親しみ 育ててもらった母なる大河
四万十川が登場した。

四万十川流域の川漁師の娘が・・という発想から
もしかしたら、この小説を書かれた伊集院 静さんは
高知県西部を蛇行しながら流れる大河・四万十川流域
のどこかで生まれた方か・・と思ったのだが
調べてみると伊集院さんは山口県のご出身とのことだった。
それはともかく、この四万十川の川漁師の娘が
小説「羊の目」の主人公・神崎 武美の母親なのだが
小説を読み進むにつれて物語に引き込まれながらも
どこかで 再び「四万十川」のことが出てくるのではないか・・
と期待しながら読んでいったのだが、結局 それ以降 最後まで
「四万十川」の登場は なく、物語は終わってしまった。
中流域を流れる四万十川と沈下橋
物語の大まかな あらすじは
僧と別れた女は、夜鷹となって僧との間に生まれた武美を
育てていたが、武美が まだ乳飲み子の頃
浅草で売出し中の侠客・浜嶋 辰三の家の庭に
武美を置いて姿を消した。
浜嶋 辰三の元で成長した武美は
親とあがめる侠客・浜嶋 辰三の命令で、闇社会を震撼させる
暗殺者となり、何度も修羅場を潜り また裏切られ
それでも じっと耐え、辰三を ただ一人の親とあがめ
生涯の忠誠を誓うのだが・・。
六兵衛が生まれ育った家の前から眺めた四万十川の流れと赤鉄橋。
この小説、1話から7話までの各章は
主人公である武美以外の人物からの視点で描かれ
連作短編のような形式になっていて
昭和の初期から平成の時代まで、礼儀正しくて心根が優しく
きれいな目をしたままの孤高の侠客を貫き通した
漢・神崎 武美の生涯の物語だ。