ペンネーム

杉本章子さんの初期の文庫本『名主の裔(すえ)』を読んだ。

文春文庫(1992年 初版)『名主の裔』と『男の軌跡』の2篇を収録。

 

文庫本のタイトルとなっている『名主の裔』は

江戸から明治へと時代が移り変わる頃の 江戸の名残を

「江戸名所図絵」として残した斎藤 月岑(げっしん)の半生

を描いた物語だ。

 

杉本さんは この作品の3年後に最後の木版浮世絵師といわれ

た小林 清観の半生と、幕末から明治へと移り変わりゆく

人と時代とを描いた小説『東京新大橋雨中図』で

第百回 直木賞を受賞されている。

そして 杉本 章子さんの小説の事は、2020年6月15日の

当ブログ「フリミ フラズミ」でも 少し触れているが・・。

「フリミ フラズミ」

 

しかし 今日のブログ日記は、この文庫本のタイトルになって

いる小説『名主の裔』のことではない・・。

1992年5月に文春文庫から出版されている『名主の裔』

に併録されている『男の軌跡』という中編小説は

やはり江戸が東京に変わる時代や風俗を、ユーモラスに

活写した「江戸繁盛期」という戯作を刊行した寺門 静軒の

半生を描いている。

 

その小説の中に、六兵衛には懐かしい名前が出て来たので

また ブログに書かずには いられなくなった・・。

 

その懐かしい名は 式亭 三馬(しきてい さんば)。

物語の主人公・寺門 静軒は儒学者として水戸藩への仕官を

望んでいたが 結局 叶わず、悶々とした日々を送っていた頃

式亭 三馬という戯作者が、江戸庶民の日常をユーモラスに

描いた「浮世床」や「浮世風呂」などの滑稽本を出版した。

その滑稽本を観た静観は強く感じ入り、水戸藩への仕官は

キッパリと諦め、私塾を開きながら 自分も「江戸繁盛期」を

執筆し評判を得るのだが、その後も静軒の背中からは

一度も会ったことさえない式亭 三馬の叱りや励ましの声を

聴きながら・・そんな物語であった。

 

六兵衛がマンガに夢中になっていた中学生の頃

同じクラスに3~4人のマンガ好きの仲間がいて

競い合うようにマンガを読んだり 描いたりしていた。

2020年6月12日のブログ「老いる・・」にも

その頃の事を書いている。

「老いる・・」

 

その頃の六兵衛のペンネームが「式亭 三馬」で

同じように I 君のペンネームは「十返舎一九」

M君は外人のようなペンネームの「マーチン」だった。

クリーニング屋の息子のK君は「ゴンちゃん」といった。

もちろん その頃の六兵衛は、式亭 三馬の詳しい事など

何も知らず、ただ江戸時代に滑稽本を描いた人だという程度

の知識であったが・・。

 

杉本 章子さんの小説『男の軌跡』の中に、割と重要な役割で

式亭三馬が登場したので、つい うれしくなって日記に書いた。

 

三馬

「式亭 三馬」は、江戸時代後期の地本作家で

江戸庶民の日常をユーモラスに描いた『浮世床』や

『浮世風呂』などの滑稽本で知られている。

 

「十返舎一九」も、江戸時代後期に活躍した戯作者で絵師

弥次喜多珍道中でおなじみの『東海道中膝栗毛』の作者

でもある。