2010年に『廃墟に乞う』で直木賞を受賞した佐々木譲さん
が、1994年に書かれていた小説『五稜郭残党伝』を読んだ。
戊辰戦争における新政府軍と幕府軍との最後の戦いの場所
北海道 函館の「五稜郭」に立てこもった幕府軍は
陥落寸前に追い込まれていた。
『降伏はせぬ!』と、自由を求めて五稜郭を脱出した二人の
幕府側の兵士が、北海道の各地でアイヌの人々や土地を蹂躙
(じゅうりん)している新政府軍の画策を知り、義憤に燃え
逃亡を続ける。
広大な北海道を 西の函館から東の根室まで逃げる背後に
新政府軍の残党狩り部隊の、酷薄で執拗な追撃が続く。
追う者と追われる者とが、男の誇りを賭けて戦う冒険小説だ。
蝦夷地三部作の第一作だという この物語の終盤に
主人公たちが、追われて辿り着いた最後の場所が
北海道の最果ての汽水湖『風蓮湖』であった。
『 源次郎は敵の潜む岩に向けて一発放った。
名木野が頭を低くしたまま、背後の岸の上に駆け上がった。
「源次郎!」
うしろでヤエコエリカの声だ。
源次郎は振り返った。
ヤエコエリカは二梃の銃を手にしている。
装填しているから使え、と言っているようだ。
流れの中に降りてこようとする。
源次郎は怒鳴った。
「くるな。いい!」
ヤエコエリカは、岸で足を滑らせた。
源次郎は思わず立ち上がっていた。
「くるなって!」
背中に衝撃があった。
熱いものが、背中から脇腹にかけてを貫いた。
源次郎の身体は、そのまま前方によろめいて
岸の黒土の上に投げ出された。
「源次郎!」
名木野が短銃を撃ちながら駆け寄ってきた。
向こう側から、また発泡がある。
源次郎が手を伸ばすと、名木野が すぐ岸へと引っ張り上げて
くれた。
「やられた」
〈略〉
・・・気がつくと頭の上に広い空がある。
「ここはどこだ?」
ヤエコエリカが答えた。
「船の上、いま、川を下っている」
この川を下ると、どこに出るんだ?」
「風蓮湖」
「どんなところだ?」
「大きな湖。コタンもある。国後も近い 。」
「ヤエコエリカ、おれの頭を少しだけ 起こしてくれ。
まわりを みたい」 』
小説『五稜郭残党伝』のクライマックスの場面だ。
風蓮湖・・フ ウ レ ン コ ?・・えっ、風蓮湖?。
六兵衛が夜 寝るときの子守唄代わりに、iPadに保存した数百曲の
古い昔の流行歌を流しているのだが、その中に「風蓮湖」を歌った
歌があるのだ。
その歌『風蓮湖の歌』を歌うのは、大津美子さんという歌手で
「 ♫ 最果ての 海に連なる風蓮湖」と始まる歌声は
寝ながら聞き流している六兵衛ではあるのだが、歌詞と相まって
清らかで しかし力強く、印象に残る歌なのだった。
読んでいた小説と、子守唄代わりに聴いていた流行歌の
それぞれに、奇しくも登場した最果ての湖「風蓮湖」。
偶然か必然か・・六兵衛としては 運命みたいなものを感じる
のだが、大袈裟だろうか・・。
『風蓮湖の歌』
作詞:内村 直也 作曲:飯田 三郎 歌: 大津 美子 (昭和36年)
1)
最果ての 海に連なる風蓮湖
この湖に 冬を越さんと白鳥の 白鳥の
寒き国より 飛び来たる
2)
空覆う 夢の白鳥 葦(よし)の葉に
ひとり泣くのは オデット姫か白鳥の 白鳥の
虹を蹴立てる 朝の舞
3)
最果ての 海に連なる風蓮湖
この湖に 暖流流れ白鳥の 白鳥の
影すべりゆく 親と子の
※ 山内 惠介という若い歌手も「風蓮湖」という歌を歌って
いるらしいが、まったくの別物である事を お断りしておく。